宝に磨きを

先日、岩手県平泉町にある世界遺産の文化財を見学する機会がありました。

12世紀、奥州藤原氏は平和国家を願い、平泉の町に浄土庭園を造営しました。以降、度重なる災害や経年劣化、社会情勢などが起因し、往時の風景からは変わっていますが、藤原氏が憧憬した浄土思想が評価され、2011年世界遺産に登録されました。800年以上の年月を経て遺る文化財は大変希少で、各時代の先人たちが大切に保存継承してきた賜物であると思います。

毛越寺庭園は、二代基衡から三代秀衡の時代に造営された浄土庭園です。ただ、度重なる天災により全建築が焼失され、現在は池と伽藍の遺構だけとなっています。
庭内の南大門跡、中島、金堂跡、そして北に位置する金鶏山と直線で結ばれており、自然・建築・庭園につながりをもたせた空間構成は本当に壮大で美しいなと感じます。

 

南大門跡から眺めると、果て無く空間が広がり、平和の永遠性を象徴しようとした藤原氏の想いを体感した気分になりました。また、建築が失われたことで視線がどこまでも行き届く庭園となっています。
庭園の広大なスケールを一瞬にして体感できますが、各所間の距離感がなかなか掴みづらく、どこで留まり、どのように眺めたらよいのか、分からずに戸惑ってしまう場面がありました。視点場の判断や往時の風景を想像する難しさを感じました。

今回、往時の風景はそのまま継承することは難しく、自然災害や経年劣化、維持管理、使用状況、保存活用など、自然や人間の手により変えられてしまいやすいと改めて感じました。

その中で、私たちみがき隊の主な活動場所である熱海・東山荘は、建築と庭園が往時の風景に近い状態で遺されています。先人の卓越した意匠や伝統技術、往時の生活状況などを日頃体感できるため、本当に恵まれていると感じます。

また、先日、東山荘にて太田講師と対談された熱海市長が仰っていました。
「熱海市が注力していることは、熱海の宝に磨きをかけて、本物をきちんと整備すること」だと。
文化財を通じて、先人の想いや伝統技術の価値を後世に伝達するには、往時の風景を原点とした保存活用や改修工事を実践することが重要だと思いました。みがき隊という機会を活用して、文化財という宝にもっと磨きをかけていきたいと思いました。

(写真上:毛越寺庭園)
(写真下:熱海・東山荘)



記事投稿:名建築・みがき隊チーフ 今野貴広