熱海の文化財を後世へ繋げるために<その3>

「熱海の文化財を後世へ繋げるために」対談もいよいよ最終回です。

その1、その2については、下記のリンクをご参照ください。

熱海の文化財を後世へ繋げるために<その1>
熱海の文化財を後世へ繋げるために<その2>

 

 

 

登録有形文化財を活用した事例

及川:市民のために文化財をどのように活用していくか、ということが本日の対談の本題でもありますが、文化財の利活用の事例として、お隣の神奈川県の「湘南邸園文化祭」があります。
ちなみに「邸園」は、建物(邸)と庭(園)からの造語ということですが、相模湾一帯の逗子、葉山や箱根までは別荘建築のベルト地帯で、その別荘文化の再興をコンセプトに県や行政、民間団体が連携して10年以上にわたりさまざまなイベントが開催されています。
本日のみがき隊に参加いただいた長田さんも、昨年はその文化祭の中で、左官のワークショップを行ったと伺いました。
※湘南邸園文化祭2017年」(湯河原地区イベントとして)
この東山荘も、相模湾を臨み庭と景観が一体となった別荘建築で、まさにこの邸園文化圏にあると思います。
文化財の活用事例として、紹介させていただきました。

熱海復活のキーワード

及川:先ほどの市長のお話の中で重要なキーワードがありました。熱海が復興したベースに「昭和が新鮮だ」とありましたが、昭和8年に創建された東山荘は、まさしく昭和です。また、「コンテンツは魅力的で本物でなくてはいけない」ということですが、文化財は本物ですよね。そして「熱海の宝を磨くんだ」とのお言葉でしたが、我々、名建築・みがき隊でも名建築を磨いておりまして、市長のお話を伺って、キーワードがとても重なると感じました。
熱海の宝を磨くということでは、文化財はまさしく宝です。熱海市の文化財を調べますと、旧日向別邸は熱海市では唯一の指定文化財です。登録有形文化財は三件ほどの登録がありますが、その一つがこの東山荘となっています。建造物としては決して多いわけではなくて、まだこれからというところもありますが、文化財の利活用について、市長のお考えや取り組まれていることなどをお伺いしたいと思います。

旧日向別邸の改修工事について

齊藤:文化財となると難しいというか、文化庁から支援を頂くというのは、年間使用など色々制約がかかり、自由に使えなくなるという面もあって実は大きな決断なのです。
ヨーロッパでは歴史的な建築物が、店舗や住宅になったり普通の生活で使われていて、これは建物が石造りであるところも大きいでしょうが、文化財は画一的にガラスケースに入れ、大事に大事に遠目で見ているだけではなくて、使うことで価値が出ることもあると思うんですね。
木や紙といったものでも色々な技法を使って、100年や200年でも使えるように、みがき隊の考え方もそうですが、ルールを守りながら使っていくことが大事ではないかと思います。
旧日向別邸ですが、実は雨漏りなど物理的にもう耐えられない状況のため一回大手術が必要で、手術後に綺麗になった後は、何とかルールを作った上でより多くの方に見るだけでなく活用してもらいたいと思っています。

起雲閣の運営と活用について

熱海市の指定有形文化財の起雲閣は、非常に活用されています。
もともとは旅館、その前は内田信也という海運王がお母様のために造った別荘でしたが、造られたのが99年前で来年100周年になります。
全部当時の建物が残っているわけではありませんが、主要な所はかなり残っており、ステンドグラスは国会議事堂と同じ作者の方が手掛けたものであるとか、別荘文化そのものだと思います。
平成12年に、もともと起雲閣という旅館が競売にかけられ、市が購入しなければマンションになってしまうと署名運動がおきて、当時の市長さんが12億だったと思いますが、購入して文化施設にしました。
その指定管理ですが、運営の主体が女性NPOの皆さんで、当時署名運動をされた方たちなので、とにかく愛があるんです。
みがき隊の皆さんと同じように、ここを残したのは私たちがあの一生懸命やった署名運動で残っている、いらっしゃるお客様に対しても建物の素晴らしさを自らの声で直接伝えられているんですね。
昨年1年間で約10万人の入館者数で、平成27年は約12万人で、安定的に10万人以上来ているのですが、それはリピート率も高まっています。いらした方の満足度、居心地がいい、名旅館やホテルでもそこにプライドを持った方がいるからこそ伝わるのであって、そういう方々が運営しているというのが伝わるんですね。
そういう意味では、指定管理というと行政的には価格の安い所に移すというか渡す、それも市の手を離れてしまい、文書に書かれたルール通りのことをやるだけになってしまいがちです。文化施設というのは、なかなかそういうものに馴染まない部分があり、私は非常に今いい団体の方に運営していただけていると思います。課題もありますが、若い方もNPOに入ってぜひ継承していただきたいと思っています。

特に別荘建築の活用という点では、まさに使ってもらうことで、起雲閣も美しい日本庭園やカフェ、和室もあります。文豪がそこに泊まって、起雲閣の別邸ですが、太宰治が「人間失格」を執筆したという歴史もあります。
そういう部屋で市民のミーティングも開かれますし、活用しながら文化を継承していくという事例だと思っています。

あと、活用する方々と管理される方が建物に対して適正な知識とともに愛情を持つことも大事だと思います。単に管理コストだけ考えて競争入札をするのは非常に危険なところがあると思います。
一方で、継続的にできる自治体がやればいいかというと、これも必ずしも100点でありません。
実際問題として、小さい街で職員が480人程度ですが、学芸員は数えるほどしかおりませんし、専門家の不足が常に課題です。市役所がやればいいのかというと、継続性はあっても、使うという発想にはなかなかなれず、文化庁からできるだけ使わないでほしい、と言われれば、そうなりがちなんです。
とはいっても、価格競争で民間に丸投げも問題で、しかるべき団体にやってもらうためにも、これから本格的に考えていかなければならないと思います。
起雲閣は現時点では、地元出身の女性NPOでこれまでの経緯や愛情を持った方々が運営されていることはすごく成功していますが、継続性という面では今後の課題だと思います。

実はMOA美術館さんのお助けもいただきたいなという思いもあります。
別荘建築とは別に、熱海には美術品、例えば澤田政廣先生の記念美術館があります。それなりに造詣のある職員もおりますが、一定の年齢になれば退職もありますし人事異動もあるので、管理や展示の仕方、ノウハウのアドバイスも頂きたいと考えています。
特に美術品は、熱海のような人口3万7千人の小規模な都市で専属の職員を潤沢に配置することもできず、ただ残さなければならないと、悩みながら、どういう枠組みの中で、澤田政廣先生の彫刻の価値をきちんと維持継続させながら市民に知らしめていくのか、いつも課題だと思います。

及川:市長からは、文化財を守りつつ活用するということが大事ですが、維持管理についてはさまざまな課題があって、形式だけではなく愛情を持ってしっかりと守るべきというお話でした。
また、現実問題として切実なお話もありましたが、文化財の活用に向けて、行政と民間の連携が求められていくと思います。市長のお話を受けて太田先生はいかがでしょうか?

 

文化財登録のジレンマ

太田:市長のお話にあった、なぜ国宝など指定文化財がガラスケースに入れざるを得ないかというのには理由があります。文化庁の味方をするわけではありませんが、それをしないと国宝など指定文化財は国の宝が破壊されてしまう可能性があるということですね。
登録文化財は建物の特色を変えなければ喫茶店の営業をやってもいいし、何でも利用できますが指定文化財はダメです。
例えば、MOA美術館に国宝の仁清の藤壺がありますが、それをガラスケースを無くして誰でも触れるようにしたときに、誰が責任を持つかということです。万が一壊れたら、価値相当のお金を出せばいいのかという問題ではないですし、また保険をかければいいという発想はまったく違います。

私なんか藤壺で口切の茶事をやってみたいと思っていますよ。だって、本物でやってみたいじゃありませんか(笑)ところが、保険かけるからやらせてくれと言っても難しいところなんです。
国宝や重要文化財の場合は、ガラスケースに入れざるを得ないという側面があって、利活用とは少し別のことですね。

また、どう考えても重文だろうというものが、市の指定文化財にしてもらえませんか?という話があります。つまり手がつけられなくなるのは困るということなんです。
自治体によっては、重文になると文化庁に釘を一本打つにも確認をしたり、あらゆる条件が設定されますから、むしろ市の登録ですと補助金も工事費の半分出るからそのほうがいい、という場合もあります。
これがなかなか悩ましいところなんですが、審議委員としては国の指定文化財にしたほうがいいのではないかと思うことがありますが、所有者は市の文化財でいい、と言うわけです。そういうことがなぜ出てくるか?市長が悩んでいることと同じなんですよ。

これは市長や県知事に力があって、文化庁や文科省に申し入れして使えるようにできるかといえば、指定文化財は難しいと思います。しかし基本的には、市長のお考えと同じで使えない文化財は困ります。

例えば世界救世教さんの場合は、箱根の神仙郷にある建物は将来的に文化財になると思います。使わないということになったらどうなるかと、ここが問題で難しいところです。
使えるようにするとなると国の文化行政に携わっている人たちが猛反対して、冗談じゃない、指定を外せということになります。
ですから登録有形文化財はなぜできて、文化財保護法はなぜ変わったか?ということです。これはイギリスの影響だと言われていますが、ヨーロッパではみんなそのまま使っていて、日本にも使える文化財をということでできました。
こうした背景から、今の段階では登録有形文化財を活用して、講演会やお茶会などもできますから、それが一番いいと思います。
ただ、国宝の法隆寺ですね。世界遺産にもなっていますが、あの中は実際に使っていて、使うことにより国宝になっているともいえます。つまり儀礼儀式がベースになって、宗教建築のためその中でおこなわれる儀礼儀式もセットとして文化遺産になっているわけですね。

活用の仕組み作りについて

登録有形文化財として、一般市民が活用できる仕組みを作るということが大事ですが、仕組みを作るときに、お金をどうするのかという話になりますね。
そのお金は、東山荘で何か活動する場合は東山荘の中で生み出すことが原則です。建物を鑑賞して、見学する人たちに利するわけですから、これは理に適っています。
以前、私が世界救世教さんの依頼で、水晶殿という大変素晴らしい景色を眺めることができる建物を改修した際、復元にあたってさまざまな文献を読みました。その中で、造営主の岡田茂吉さんの構想では、拝観料を頂くということを仰っていて、この考え方は本当に理に適っていると思いました。
この東山荘も同じことで、ここへ来て皆さんが見て、喜んで感動したものは、相応の拝観料を頂くことは普通だと思います。
これが今後の文化財の考え方の一つで、利益を得るのではなくて運営資金を調達することは大事です。

私が東山荘の文化財登録をしたときに所有者の方に、ここの基金を作ったほうが良いと提案しました。10年後の改修や30年後の造替に向け、次の世代に基金を残していくということです。
ただ、その基金はすべての工事費を賄うわけではなく、工事費の一部になればいいのです。基金を集める方法は、瓦募金などで瓦一枚に名前を書いてもらって、これは市でもできるはずです。
そのためには、こうした対談や講演会を開き、皆さんとの接点を増やして若い人たちが参加できる仕組みを作るということが大切ですね。人は募集するのではなく、自分が一緒にしたいという人を引っ張ってくる、そういう考え方で、面白い、楽しい、喜びとか、ためになることを仕組みとして作り出すことです。これが東山荘では東山荘の、あるいは起雲閣では起雲閣の方法で出来ます。
全てを市の資金で賄うのではなくて、訪れた人に協力してもらい種銭にして、実際の改修工事の際には、一般に神社仏閣でやるように瓦募金で一枚ずつ寄進してもらう、そのように文化財を考えていかないと、人材がいなくなり、後継者が集まらず、資金が詰まって修理できず、結局は朽ちてしまいます。
考え方は30年くらいのスパンをいつも持っていないと、こういうことはうまくいかないものです。
市の職員の方も任期中にやればいいということだけですと必ず行き詰まります。必ず30年先のスパンで、自分が退職したらできることをやろう、若い人たちを育てるお役に立とう、そういうサイクルができない限り、長期的に文化財は守れないですし、継承できません。
まだ宗教団体さんの場合は教えとか、宗教的な柱がありますからいいのですが、一般企業や市の職員の方ではそういうことができにくい環境です。中には文化財に特化した人たちが退職した後に活躍していただいてもいいわけで、それには退職前から仕組みを作って学んでいくサイクルが必要ですね。
最終的には、だれもみな亡くなるんですから、せめて次の世代のお役に立って亡くなる方が気持ちがいいじゃないですか。そういう考えを基本に、きちんと継承していく必要があると思います。
そういう思いが、建物とか「すがた・かたち」のある物には託せるということです。私はそれができると思っています。

みがき隊がキーワード

先ほどからお話ししているように、国宝や重要文化財を使うということは非常に難しいですが、ただし、風穴があいて、条件や状況が整えば、さまざまなことができると思います。
そのキーワードは「みがき隊」です。文化財という国の宝を清潔に保つというやり方、埃を払うとか日常の維持をベースにしたみがき隊ですね。
そもそも、みがき隊は磨くのではなくて、美しいものを清潔に保つということが主たる願いです。
以前、文化庁の調査官に話をしたことがありますが、余計な仕事はやりたがりません。
もし市長から名建築・みがき隊に出動要請があれば、及川隊長も嫌だって言えないでしょう(笑)
だから30年先はどうなっているか、私などはいなくなっていることはわかっていますが、30年先のことは想像できるし、継承してもらうやり方は提案できます。
そうした考えに基づくと、次の時代を担う子どもたちはとても大切で、東山荘もそうした子どもたちと一緒にみがき隊をやったら楽しいじゃないですか。必要あれば私も一緒にやりますよ。

 

及川:指定文化財と登録文化財の違いなど、とても現実的なお話でした。
旧日向別邸は、改修工事後のあり方もこれから模索されていくと思いますが、市長は起雲閣の維持管理で大切なことは「愛情」とおっしゃいました。太田先生からは文化財を残すための次世代に対する思い、そして「みがき隊」がキーワードというお話もありました。
一般的に住まい手がいなくなった建築は、手入れが行き届かずに傷みやすくなりますが、木の建築の場合はさらに手入れが大事です。みがき隊は、単なる掃除ボランティアではなく、素材や建築を学び文化財の価値を市民レベルで理解して、どのように活用して残していくかということを、みんなで考えるために活動をしていますので、行政、企業だけでは補えない部分を担っていければと思っています。
今までの内容を踏まえ、市長から何か新しい展開やお考えがあればお伺いできればと思います。

 

「公」の考え方

齊藤:行政と民間、一般的に言うと官と民と呼ばれ、二律背反的な考え方になりがちですが、これからは官でも民でもない「公」と言ったらいいのかもしれませんが、そういう組織体というか機能がこれから必要になってくるのではないかと思っています。
建物のメンテナンスなど、最近のNPO組織はその意味かもしれません。

全然違う切り口ですが、最近、町内会や民生委員さんの存続自体が厳しくなっています。熱海市も非常に高齢化が進み、81の町内会があり、特に太田さん出身の網代などは結束が強くて、雨が降ると洗濯物が取り込まれていたり、よほど家を空けなければ鍵をかけないそうですね(笑)
コミュニティも高齢化が進み、人口や若い人が減る中で、町内会で担っていたこと自体ができなくなりつつあります。
例えば町内会の会計報告などは、現実的に市の職員の一定数がメールなどを活用してやっています。
民生委員という制度は無報酬で、高齢者の見守り相談、お世話をしていただいていて、熱海では200人くらいです。民生委員自身が高齢化していたり、マンションなどはセキュリティで中に入れないという状況で、民生委員の成り手が少なく町内会長さんが兼ねている場合も多く、後任が見つけられず辞められないという責任感のある方もいます。
行政自身が町内会の役割を担っていかないと回らない状況に入っています。行政が町内会までやるの?という議論もあるかもしれませんが、私はやらざるを得ないと思っています。町内会があって皆さんの生活が守られるのであれば、市役所の新しい仕事というか、今まである意味ボランティアで市の職員がやっていたことを市の業務としてやっていく時代がやってきているのかなという感じがしていまして。

官・民と分かれるところから、市役所も地元に入っていくようなところもやらなければ回らない時代になっていると、ここ数年感じています。
例えばこのような場所の管理にしても、官・民だけではなく、みがき隊のようなボランティアや市民の方に力をお貸しいただく形で回していく。
ここはこの組織がやるんです、と言わずに、どんどんそういう方々に一緒になって入ってもらわないと回らない。人口も減り、高齢化も進み、若い方に継承していかなければならないとなると、そういう境がどんどん無くなってくるように思います。

 

及川:官・民の境が無くなるという意味では、我々みがき隊も行政の方たちとも連携を取りながら深めることになりますね。
まさしく熱海の宝や国の宝を残すために何をしたらいいのか、別々に考えるのではなく手を携えて、社会構造の上でも共通の課題としてやっていく必要が出てきているのですね。
最後に、太田先生はいかがでしょうか?

 

「公」の仕組み作りについて

太田:私もだいぶ前から感じていまして、例えば寝たきりのおばあさんの家に頼まれてみがき隊で行ったことがあるんです。綺麗にして大変喜ばれましたけど、それをやっていると私は仕事ができなくなるので、なかなか難しいんですよ。
東山荘と旧日向別邸の場合、その二つの建物を見た人が、誰も市の所有だとか世界救世教さんの所有という話にならないですよ。
所有者が誰かはその先の話であり、要するに熱海にある文化財なんです。

そうした熱海の地区の一角にある文化財として考えた場合、多くの人に見てもらうための管理を考えると、空いている所に集会場やトイレ、お茶会ができるようなものが何かあればなと思います。
世界救世教さんが持ち主だから整備して市で使わせてもらうのではなく、いい形で一緒にやって両方使うとか、工夫で色々できるのではないでしょうか。
問題は財産的なもので禍根を残さないとか、やれる仕組みさえ作れば、熱海市の発展にしても文化的なものを残すとしても優れたやり方ですね。
所有者の考え方ではなく、市民活動のようなことで物事が成功するという必要性があるんです。
もう一つ例えて言えば、みがき隊が色々な所で活躍して、実績があるので旧日向別邸の工事ができたらみがき隊をこういうやり方でやりたいんだと、文化庁に風穴を開けてそれができるようになったとしますね。そうしたらみんなが共有してできるような見学コースなど、みがき隊が市と連携して作れます。
市長が言われたように、これからの時代は官・民ではなくて「公」で、「公」の仕組みが必要な時代になっていますよ。

それから、私は網代出身ですが、鍵をかけた記憶が無いですね(笑)
漁師町というのは一緒に沖へ出て、そこの親父が事故で亡くなるとみんなでその家族を支える仕組みなんですよ。市長のおっしゃるように、これは「公」というものの考え方、災害時は、市民が消防でも何でも助けるように、片側で行政に押し付けるのではなく、互いに境目が無いような、そういうものがこれからの時代に絶対必要です。

日本の考え方―公平と和―

西洋の思想は平等だと言われますが、日本には平等という意識は無く、昔からの意識は公平なんです。
力の強いやつは弱いやつを助けろ、出っ張りがあったらみんなで平らにしようというのが公平です。そういうものが復活してくるのではないかと思います。
私は市長と何年か交流させていただいていますが、市長は政治的な境目が無いように思います。そういう時代なのか、結局、政治家然とした、市長然としたということより、市民を代表しているリーダーだという感覚が近いのではないでしょうか。そういう人たちが世の中を引っ張っていますよ。
「公」というのがキーワードだというのは私も承知していますが、あとはやり方を考えると非常にうまくいくと思います。優れている人が、そのことについては優れていない人に自分を持ち出してもらい、そうやってなるべく平らにしていこうという考えです。人間みんな体力のある人ない人とかみんな違うので、それは縄文時代から日本人が持って来た、列島で暮らしてきた人たちの知恵だと思います。
ですから「和」というものが当てはまるかもしれません。「和」は和みですよね、そうすれば和んで争いが少なくなるということでしょうね。これからは市長は「公」というものを売りにするかもしれません。ぜひ期待したいと思います。

最後に

及川:この度の対談で、市長からは「公」、太田先生からは「和」という二つのキーワードを頂きました。また、本日のテーマでありました、熱海の文化財を後世に繋げるため、具体的な事例もいくつか頂きました。我々みがき隊も、本日の対談を学びとし、東山荘をはじめとする名建築を残していくため、多くの方々とのご縁を築き確実に活動を積み重ねながら、自分たちの役割を果たしていければと思います。
そういうことを現実化できるように我々も取り組ませていただきたいと思います。

今日は本当に長時間対談いただきまして、齊藤市長、太田先生、ありがとうございました (拍手)

写真上から
・名建築みがき隊 ワークショップの様子
・(株)長田左官工業の長田幸司さん
・熱海市指定有形文化財「起雲閣」(庭園)
・熱海市指定有形文化財「起雲閣」(玉姫)洋館
・澤田政廣記念美術館
・文化財について説明する太田講師
・岡田茂吉氏設計の「水晶殿」
・名建築・みがき隊 活動風景
・市の取組みを語る齊藤市長
・国の登録有形文化財「東山荘」
・重要文化財「旧日向別邸」
(熱海市観光協会公式観光サイトより)
・齊藤市長を囲んで記念撮影

 



記事投稿:名建築・みがき隊事務局 日野美奈子