本物の墨と和紙と筆で「手に得て心に応ず」

先日、みがき隊事務局で、ワークショップの講師としてお世話になっている建築家の太田先生から書のご指導をいただく機会がありました。

みがき隊のワークショップでは、材料の種類に合った手入れ方法の重要性を学びましたが、 今回は建築を知るには木の建築を知ること、木造建築には循環のサイクルがあることを教えていただきました。
そして、かつての棟梁たちがやっていたように、本物の墨と和紙で筆を使って、スケッチの訓練をさせていただくことになりました。

 

以前、江戸時代の棟梁が書かれた図面を見せていただきましたが、とても筆で描いたとは思えない線の緻密さ、1文字1文字からその時代の棟梁たちがいかに器用だったか驚きます。

まずは、墨のすり方、そして筆遣いと半紙のスペースをいかに使うか基本の練習です。墨をすったのも中学校の習字の授業以来で、やはりいい墨と硯では感覚が違うような気がします。
そして、〇や×などの記号を描いたり、ステンドグラスのデザインを再現したり、同じ線一つ描いても人によってだいぶ違いが出て、無意識に性格が表れてしまうようです。

次に、ワークショップの場としても馴染みのある東山荘本館1階の床の間周りを何も見ずに筆で描いてみるというお題でした。

何度も行ったことがあるのに、実際に筆で描こうとすると、細かい所が思い出せず、見ているようで見ていないことに気づかされて愕然としました。

筆一本で、線の太さ、強弱、濃淡、にじみ具合など様々な表現ができ、一度スケッチしたものは意識の深い所に落とし込まれていくような感覚を味わいました。

まさに「手に得て心に応ず」、手を動かして実感して自分の血肉となっていくのだということを体感させていただきました。

現代では、失敗すれば何度でも書き直しができ、パソコンを使えば簡単に図面もできてしまう時代です。しかし、昔は紙自体が高価なため意識を研ぎ澄まして良く物を見て、一筆入魂の精神で描かれていたのではないかと想像が膨らみます。

先人たちは筆と和紙と墨を使うことで、五感を通して繊細な感覚を研ぎ澄まし、それが日本建築の美しさに表れてきているのだろうなということを感じました。



記事投稿:名建築・みがき隊事務局 日野美奈子