魔法の水

昨今、世間で「魔法の水」と呼ばれ多くの関心を寄せているものがあります。
それは木材利用の可能性を拡げる「液体ガラス」です。

通常、1400度以上の高温でなければ溶けないガラスを、常温で液体化に成功させたもので、コンクリートの構造体に塗布すれば強度を著しく向上させ、建造物の耐力が飛躍的に向上するというものです。

そして、この液体ガラスが技術開発によって木材に転用できるようになった事で、建築業界を越えて多くの人の注目を集めています。

先日、この液体ガラスの開発者が主催するセミナーに参加しました。

そもそも日本は、国土の約7割を森林とした世界有数の森林国家ですが、木材自給率は3割ほどで需要の大半を輸入に依存しています。
また、国内の木材が活用されず森林が荒れ果て治水力を失ったことで、近年の局地的豪雨では流木が発生し、災害を極大化させる大きな要因ともなっています。

開発者は特許を申請せず、この技術を暫く海外には出さない方針で、液体ガラスによって新たな木材需要を創出し、国産材の活用を進めて日本を活性化させたいとの願いを語られていました。

液体ガラスを塗装することによって、腐らず、割れず、シロアリに食害されず、さらに燃えない木材となり、用途自在のハイブリッド木材に変化するという事なのです。

この液体ガラスの技術によって、新しい建築のデザイン領域は格段に拡がりますし、強度があって燃えない木材が、さまざまな分野に転用されれば、その波及効果は大きいものがあると思います。

しかし、燃えない木というのは、果たして自然なのか…と立ち止まって考えなくもありません。

かつて電気機器の絶縁油に使われたPCBや、断熱材のアスベスト、内装下地材の石膏ボードなど、当時は有効資材として多用されたものが、現在は大きな社会問題となっている実態があります。

建築業界は社会基盤であるがゆえに、時に大きな影響力を及ぼす事から、新しい技術は中長期的な視点も合わせて検討する事も必要だと思います。

また、京都の北山杉に代表される銘木で作り上げられる数寄屋建築の分野においては、木のゆがみを活かし、また伸び縮みさえも考慮に入れた、名匠の高度な技術が傾注されると聞きます。
こうした丸太を巧妙に組み合わせるような世界に誇る木の技術は、時代を経て新しい素材や工法が開発されたとしても特化した分野として残し、また継承されなければいけないと考えます。

開発者の願いの通り、この魔法の水が「木の国」日本に立ち返る大きな働きをするのかどうか、自ら見極めつつ、新しい技術の有効性と用途など、さらに検証していきたいと考えています。

(写真上:京都北山杉の生産林 中山地区)
(写真下:液体ガラスセミナー資料)