自分の道を生きる

私は、前回投稿(2017年11月13日 木の構造と表情)を契機に、名建築は、大自然の風雨や人為的な改修など、様々な外的要因を耐え忍んできたことで、先人達の想いや技術、建築の半生を学ぶことができる場所であると感じています。

そんな中、先日、私は40年勤められたベテランの植木職人さんから、貴重なお話を伺う機会を頂きました。

「40年前、私が20代前半で下っ端だった頃は、毎日のように先輩が剪定で落とした枝葉を拾い集めることが仕事でね…。先輩のように剪定をさせてもらえるのはいつの日になるのかと、ずっと辛抱して続けていたよ。」
「1番貴重なものは経験。これから良い経験をたくさん積んでいくようにね。」

職人さんの1つ1つの言葉には深さと温かさがあり、若い私達に明日を生きる緊張感と希望を与えて下さいました。

私は、このような職人さんと名建築は、「生き方」という点で共通していると感じています。 それは双方ともに、この世に生を享けてから現在までの長い年月により、文化的・社会的な価値を限りなく高め、後世へ語り継ぐ大きなエネルギーを持ち合わせていると感じるためです。

 

その数日後、私は神奈川県鎌倉市にある雪堂美術館へ足を運び、茶会に参加させて頂く機会を頂きました。
席主の太田新之介先生は、本床にある書家・小野田雪堂先生の表具のお言葉を読み上げられ、お話下さいました。

「鵠不浴白鴉不染黒」

これは「くぐい(はくちょう)はよくさずしてしろく、からすはそまらずしてくろし」と読みます。白鳥は毎日水浴びしなくても常に白く、烏は毎日身体を染めなくても常に黒い、という意味で、「人と比較せずに自分を生きること」の重要性について説いて頂きました。

太田先生のお話をお聴きして、先程の職人さんと名建築に共通する「生き方」というものは、「自分を信じて、自分という道を生きること」ではないかと、私は感じるようになりました。

名建築・みがき隊は、身近にいる人材や建築を、長い時間軸の中で大切に育てて、次世代へ継承していく重要な役割があるのではと、私は昨今深く学ばせて頂いています。

 

(写真上:木に登り剪定する植木職人)
(写真下:小野田雪堂 筆「鵠不浴白鴉不染黒」 )



記事投稿:名建築・みがき隊チーフ 今野貴広