旧安田楠雄邸庭園

暑さ残る8月末、みがき隊の事務局は熱海・東山荘の所有関係者とともに、東京都指定名勝の旧安田楠雄邸庭園(以下、旧安田邸)の見学に行きました。

旧安田邸では、今年9月から来年の秋まで耐震補強工事等の為に休館する予定で、その直前という忙しい時に関わらず、関係の皆様に対応頂き心より感謝でありました。

この度の見学は、今年6月に旧安田邸の関係者が熱海・東山荘を見学された事をご縁にお声かけ頂いたもので、東山荘の公開整備に向けて意義ある機会となりました。

東京都文京区に建つ旧安田邸は、1920年に「豊島園」創業者の藤田好三郎により創建され、関東大震災後に旧安田財閥の創始者・安田善次郎の女婿である安田善四郎が藤田家より購入し、1995年に安田家当主の楠雄氏が他界した後、夫人により日本ナショナルトラストに寄贈されました。

建物を拝見して一番驚いた事は、建物の意匠や設備などの細部までもが、往時の姿そのままに残っている事で、その空間に身を浸す時、歴代オーナーの建物への愛着が強く感じられました。そして、大正期の近代和風住宅の貴重な遺構が、多くのボランティアの手により公開運用されている事も特筆すべき事です。

 

私達の見学に合わせ、伝統技法研究会の伊郷様から建物の改修や耐震改修の計画などについて、たてもの応援団の多児様から安田邸の歴史や運営状況などをご説明頂きました。

 

建物を巡ると、廊下の壁には創建当初から残る電灯スイッチ、内玄関には安田家の家紋が印された提灯の箱、そして照明器具の一つ一つまでもが、細部に渡りその時代のまま残っています。

 

応接間天井の花飾りの意匠は、細部を検証した結果、小さな気泡があった事から寒天で型取りされた根拠とされました。こうした検証結果をもとに、公開に伴う天井の復元改修にあたっては、寒天を使い往時の工法で再現されたそうです。

建物を巡り、時代性ある空間には、照明器具をはじめとして生活の様相を伝える器具や調度品などが、とても重要な要素である事を、改めて実感することができました。応接間からサンルーム、そして緑庭へ連なる豊かな空間は、当時この場所に集った人たちの上質な時間を連想させます。

応接間の蓄音機は当時、米国から輸入された品で時折、レコード鑑賞の会も設けられているとか。
台所には氷を入れて使う木の冷蔵庫や、電気の配電盤も当時の姿が残されています。

天井なども各部屋ごとに意匠や設えを変えていますが、中でも浴室の天井を見ると天井の板と板を竹釘のようなもので継いだ意匠が確認できます。これは熱海・東山荘の別館にも同じ意匠が残っていて、双方とも清水組の施工であるという事からも興味深い共通点でした。

二階の書院づくりの座敷は格式高く、一間半の床の間に、右手に違い棚、左手の書院には花狭間(はなざま)と呼ばれる緻密な指物細工が施され、座敷からは緑豊かな景色を望む事ができます。

建物の見学の後、ご説明案内を頂いた皆さまとランチをご一緒しながら、建物が遺され公開に至った経緯やボランティア運営の実情など、とても貴重なお話を頂き、名建築・みがき隊の今後の活動に向け、とても有意義な機会となり、関係者一同で喜び合いました。

後日、御礼のご挨拶をした際、「ボランテイアの力は継続の中で培われるもので、まずはみがき隊を楽しみながら実践してみてください。」との言葉に力を頂きました。

末筆ながら、この度の見学にお導き頂きました高川様、またご多用のところ丁寧なご説明を頂きました多児様、伊郷様に心から感謝申し上げます。