境地を継ぐ

この夏、関西方面に行く予定の合間に、長谷寺(奈良県)とMIHO MUSEUM(滋賀県)を訪れました。

 
長谷寺(国宝:本殿より本坊を臨む)                 MIHO(美術館より神殿を臨む)

長谷寺は、真言宗豊山派の総本山で、全国の長谷観音の根本像を御本尊に「花の御寺」として有名ですが、懸造り(舞台造り)の本堂からは雄大な景色が眼下に広がります。

MIHO MUSEUMは琵琶湖の南、奈良時代に聖武天皇が営んだ紫香楽宮の程近く、神慈秀明会の神苑を臨む山手に、建築家I.M.ペイの設計で1997年に建てられた美術館です。

 
長谷寺 本堂(断崖に懸造り)                                     MIHO レセプション棟(トラス構造)

 
長谷寺 礼堂 (堅牢な木構造)                           MIHO 美術館  (重厚な石と軽快な鉄、ガラス)

双方は創建された時代も大きく異なり、具現化された姿形、使われている素材においても大きな違いがありますが、それぞれの思想に基づき緑豊かな自然の中に理想の境地を造りだしており、中でもそのアプローチに類似性を感じました。

                長谷寺(重要文化財:登廊)                              MIHO(美術館へ繫がるアプローチ)

長谷寺では、本堂に至る登廊(のぼりろう)、そしてMIHO MUSEUMでは美術館に至るレセプション棟からのトンネルといったアプローチは、パースペクティブな空間を移動して高揚感を得ながら、その先の境地に至る劇的な効果を果たしている事を認識しました。

             長谷寺(登廊の向こうに愛染堂)                          MIHO(アプローチの向こうに美術館)

さらに、それぞれの境地にしばし身を置き、とりわけ感じた事は、こうした境地を形づくり、その如く継承していくには思想を実践する人々が大切であるという事でした。

長谷寺を巡る中、厳しい暑さの中で修業をされている僧侶に出会えば、おのずと頭が下がり、ご本尊に熱心に手を合わせお参りしている方々の姿を通し、敬虔なおもいが沸き起こります。

MIHO MUSEUMでは心地よい笑顔で迎えられ、レストランでは無農薬野菜で彩られた一汁三菜の御膳がとても美味しく、美の境地を楽しむことができました。

そして、双方の境内はチリひとつなく丁寧に掃き清められていました。

 

文化的な価値を持ち、造形的に優れた建築空間が、時代を経ても輝き続けるためには、自ずとその真価を知る人々の手によって、境地を継承する必要があります。

みがき隊のワークショップでも、素材を綺麗にする方法のみならず、文化的境地を次世代に継承するために必要な考え方や行いをさらに学んでいく必要性を実感しています。