庭は人に安心を与えるところ

先日、日本庭園協会 名誉会長の龍居竹之介先生のご案内で、小石川後楽園、新宿御苑、池田山公園といった東京の庭園を巡る機会を頂きました。

現在は、憩いの場としても多くの人を迎える三つの庭園の共通点は、その起源が武家屋敷の庭園であった事です。

歴史ある建物や庭園を訪れる時、その場所が時代毎にどのように使われて、どんな情景であったのか、想像力を掻き立てる事が大切だと考えています。


小石川後楽園では高台からオカメ笹の大刈込の小廬山越しに全景を俯瞰すると、現代においてこそ高層ビルや巨大な施設に囲まれていますが、往時はどれだけ伸びやかで雄大な景色であったかと思います。

新宿御苑のフランス式整形庭園では、明治期にルネサンス様式の宮殿が建設される計画があったと説明されました。正門前に立てば、両翼の高いプラタナスの並木は明らかな軸線をもって集束していて、その先にもし宮殿が建っていたら、現在の風景とは全く異なる素晴らしいヴィスタ景観であろうと、しばし足を止めて考えました。

 

池田山公園は、今は閑静な高級住宅地に立地していますが、江戸の頃は高台から遠く富士を眺めたという立地にあり、起伏に富んだ地形を活かした庭園では、高台から深い谷の下に池泉を覗き込む立体的な広がりを味わう事ができました。

そして、どの庭園も高低差を巧みに生かし視点を変え、明暗や広狭といった対比が様々な所にあり、訪れる人に楽しみと高揚感を与える庭園でした。

また、庭内には景色の良い視点場を意識して、様々な施設が配置されていましたが、大きな庭園を巡ると建築物も景色の一つであり、庭と建築の調和がとても重要である事を実感します。

龍居先生は常日頃、「庭は人に安心を与えるところ」と語られています。

だからこそ、庭や建築は、訪れる人が安心して自由に眺めを楽しむ事を約束するものでなくてはならないと。

小雨が降った一日、訪れた公園には、四阿から池に拡がる雨の波紋を、ゆったりと飽かず眺めている人たちが居ました。

現代都市のオアシスとして人々が訪れる都市公園を巡りながら、庭園を構成する建築と庭の在り方について考える機会となりました。

(写真上:小石川後楽園 内庭の池を飛ぶ鷺)
(写真中:小石川後楽園 俯瞰の景)
(写真下左:新宿御苑 フランス整形庭園プラタナス並木)
(写真下右:池田山公園 池泉の景)